脂肪はどうやって使われる?
- amefutomatome
- 2017年1月7日
- 読了時間: 4分

正月休みでゴロゴロと過ごし、体重が増えてしまった方も多いのではないだろうか。
今日は脂肪の蓄積と代謝のメカニズムを少し細かくみていこうと思う。
脂肪はグリセロール(グリセリンともいう)1分子に3分子の脂肪酸が結合した構造をしている。 食事から摂取した脂肪は十二指腸や小腸内で膵液中のリパーゼによって加水分解され、トリグリセリド(中性脂肪)から脂肪酸とグリセロールが分離される。グリセロールは水溶性なのでそのまま小腸から毛細血管に吸収され、解糖系で代謝されたり、糖新生によってブドウ糖に変換される。
脂肪酸は水に不溶性だが、胆嚢から十二指腸に分泌される胆汁中に含まれる胆汁酸やホスファチジルコリンやコレステロールによって乳化されたミセルを形成する。ミセルというのは、水になじむ部分(親水基)と油になじむ部分(親油基)をもつ物質が、水の中で親水基を外に親油基を内に向けて球状に会合した粒子である。ミセルは水溶性で受動拡散によって消化管粘膜の吸収上皮細胞内に吸収される。 脂肪酸が腸管から吸収されるとき、脂肪酸の大きさ(炭素鎖の長さ)の違いによって代謝のされかたが異なる。 炭素数が13以上の長鎖脂肪酸の場合は、腸壁を通り抜けると、腸管粘膜上皮細胞内で再びグリセロールと結合して中性脂肪(トリグリセリド)になり蛋白質などと一緒になってカイロミクロンというリポ蛋白質粒子になる。 カイロミクロンはリンパ管から胸管に入り、鎖骨下静脈から大循環系に入って全身に運ばれ、主に脂肪組織や筋肉組織に取込まれ、一旦貯蔵されてからグリコーゲンが枯渇したときに分解されて、ゆっくりと消費される。つまり、長鎖脂肪酸はエネルギーとして代謝されにくく、体脂肪として蓄積されやすい脂肪酸である。
炭素数が8~12の中鎖脂肪酸は胆汁酸によるミセル化は不要で、小腸吸収細胞に容易に吸収され、分子が小さいことから腸管で毛細血管に吸収され、長鎖脂肪酸のように中性脂肪に再合成されず、カイロミクロンを作らずに遊離脂肪酸のまま門脈に入って肝臓へ運ばれ、速やかにエネルギー源となって代謝される。 中鎖脂肪酸は肝細胞内のミトコンドリアに入り、炭素分子が1つおきに酸化されるβ酸化という過程に入ってアセチルCoA を生じてTCA 回路に入って代謝されるが、ブドウ糖の補給が少ない状況ではアセチルCoAはケトン体産生に利用される。 脂肪酸がβ酸化のためにミトコンドリアに取込まれるとき、長鎖脂肪酸はL-カルニチンが必要だが、中鎖脂肪酸はL-カルニチンの助けなしにミトコンドリア内に入って、速やかに代謝される。
中鎖脂肪酸はエネルギーとして燃焼される効率が高く、体脂肪として蓄積しにくいので、最近では中鎖脂肪酸を含む脂肪(中鎖脂肪酸トリグリセリドあるいは中鎖中性脂肪)はダイエットや健康によい油として急速に普及している。手術後や未熟児の栄養補給に医療現場でも利用されている健康的な脂肪である。中鎖脂肪酸の入った食用油は体脂肪をつきにくくする特定保健用食品の関与成分となっている。米国では、アルツハイマー病の治療にも利用されている。
中鎖脂肪酸は長鎖脂肪酸より約4倍も吸収が速く、代謝も10 倍も速いと言われている。このように中鎖脂肪酸のエネルギー利用速度は速いので、激しい運動の持続時間を延長する効果も報告されている。また、長鎖脂肪酸は感染防御や免疫系に負荷がかかるが、中鎖脂肪は影響が少なく、また組織への蓄積傾向や臓器障害のもととなる脂質過酸化反応も少ないためより安全に摂取できる。
長鎖脂肪酸は糖類が存在するとケトン体産生が抑えられるが、中鎖脂肪酸からケトン体を作る経路は糖質の影響をほとんど受けずにケトン体が多量に産生される。肝臓ですぐに分解される中鎖脂肪酸を利用すると、脂肪の割合を60%程度に減らし、糖質を1日40〜60g程度摂取しても、ケトン体を大量に産生することができる。
日本で使われている食用油(菜種油、大豆油、紅花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、コーン油など)は長鎖脂肪酸(炭素数が13以上)が主成分である。一方、中鎖脂肪酸(炭素数が8〜12)を多く含む油としてはヤシ油(ココナッツオイル)がある。ココナッツオイルには、60〜70%の中鎖脂肪酸トリグリセリド(中鎖脂肪)が含まれている。
ケトン食療法用の中鎖脂肪酸トリグリセリド85〜100%のオイル(キッセイ薬品のマクトンオイルや日清オイリオ社のMCTオイルなど)も市販されている。中鎖脂肪酸が長鎖脂肪酸よりもケトン体を多く産生でき、炭水化物や蛋白質の許容量が高いので、より調理がしやすく食べやすいケトン食を作れる。このように、中鎖脂肪をうまく利用するのが、がん治療に対する中鎖脂肪ケトン食療法のポイントになります。
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